加古隆『50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~』スペシャルインタビュー 加古隆『50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~』スペシャルインタビュー

美しさと感動。このふたつをキーワードに──

これまでクラシック、フリージャズ、現代音楽、劇伴などの映像音楽と様々な作品を手掛けてきた唯一無二の音楽家・加古隆。デビュー50周年を迎えた2023年、その音楽人生を集約させたコンサートツアー【50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~】を開催する。50年に及ぶ自身の音楽キャリア、同ツアーに懸ける想いについて語ってくれた貴重なインタビュー、ぜひご覧頂きたい。

--デビュー50周年。これだけのキャリアを詰まれたことに対してどんな感慨を持たれていますか?

加古隆:好きなことだったから辞めようと思ったこともなかったし、この歳まで元気で健康にいられたから50年続けることができた。その中でいろいろな仕事と出逢ってきたわけですけど、その度に新しい世界と刺激を与えてもらえたんですよね。今まであまりテーマとして取り上げたことがないようなもの、そうした依頼があったときにいろいろと考えて工夫して「僕の音楽の中にこういうタッチがあったんだ」と発見していくことができた。そんな50年だったと思います。

加古隆

--常に新しい世界を表現していくことができた50年だったと。

加古隆:例えば、映画『博士の愛した数式』のサウンドトラックを手がけたときに、僕はそれまで人の優しさとかね、そういうことをテーマに取り上げたことがなくて。自然とか美しい風景をテーマに創作することが多かったから。でも『博士の愛した数式』の台本を読んで、本当に感動して涙が溢れて、その気持ちのままでピアノに向かったときにあのメロディーが出てきて「こんなメロディー、今まで書いたことがなかったな」と思ったんです。そういうきっかけをもらっては、自分の中に元々あったんだろうけど、発見できていなかったものを見つけていくことができて、僕の音楽はどんどん広がっていったのかなと思いますね。

--加古さんの音楽は、そうした様々な出逢いによって構築されていったんですね。

加古隆:やっぱり出逢いですね。最近だと『映像の世紀バタフライエフェクト』という番組のサウンドトラックを担当させてもらって、あれも新しい出逢いだったわけですけど、そこでまた新しい自分の音楽を創作することができた。なので、いろんな人や作品との出逢いがあったからこそ、こうして50年間も音楽を続けていくことが出来たんだろうなと思います。

--そんな加古隆の50年間を集約したコンサートツアー【50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~】が今春開催されます。50年分の音楽をひとつの公演で表現する上でどんなことを考えましたか?

加古隆:1973年にパリでデビューして、そこから今に至るまでの僕の音楽の歴史を一望できるような、そういうコンサートにしようと決めました。それを組み立てる為に僕にとって大切な時代、音楽、楽曲は何なのか考えたときに「これは外せない」という4つのパートが思い浮かんだんです。それは、やはりデビューしたとき。それから何年も続けてきたフリージャズの時代。これをなしにするわけにはいかない。という訳で、まず「Part1/巴里の日」というパートを設けようと。その次は、パリから帰国してピアノソロコンサートを中心に活動していくことになったのですが、それが僕のライフワークになっていったんですよね。しかもその中で今の自分の音楽スタイルを見つけるきっかけがあって、そのターニングポイントとなった楽曲が「ポエジー」だったんです。

--イングランドの民謡「グリーンスリーブス」をモチーフにした楽曲ですよね。

加古隆:この「ポエジー」という楽曲が生まれたことで、その後の僕の音楽スタイルに辿り着いたんです。ですから、これも欠かすことができないので「Part2/ポエジー」というパートを設けました。ここまでを1部としてピアノソロでやろうと。そして、2部では、加古隆クァルテット。これは2010年に結成したので、もう13年になりますが、僕はパリ時代、フリージャズをピアノトリオやクァルテットなどグループでやっていたんです。それからひとりになってピアノソロを長くやってきたんですけど、2000年を過ぎた頃から「もう一度グループでやりたい」と。それは昔のようにフリージャズのグループをやろうと思ったわけではなくて、今の自分に相応しいグループ。それで誕生させたのが加古隆クァルテットなんですが、今でも現在進行形としてやっていますから、これをひとつのパート「Part3/クァルテットの誕生」として取り上げようと思いました。で、もうひとつのパートを考えたときに、それは映像の音楽。これもまた僕にとって欠かすことはできない。

加古隆

--最後のパート「Part4/映像の世紀~パリは燃えているか」ですね。

加古隆:映像の音楽はたくさん手掛けてきていますから、その中から今まで最も広く世の中に紹介された『映像の世紀』、そして、そのテーマ曲である「パリは燃えているか」。これをひとつのセットにして4つ目のパートにしようと考えました。

--4月から5月28日の東京・サントリーホール公演まで続く50周年記念ツアー、来てほしい皆さんへメッセージをお願いします。

加古隆:今回のコンサートツアーは、僕の50年間の音楽の流れを一望して頂ける。そういう内容で考えているのですが、とても大事にしていることは、来て下さる皆さんにその音楽の時間を楽しんでもらう。まずこれを忘れてはダメだと思っています。いくら50年間の音楽をきちんと表現できても、それが出来なかったら意味がないですからね。なので、とにかく皆さんに楽しんで頂く。

加古隆

--なるほど。

加古隆:そして、僕はいつもいつも音楽を最も大切にしているんですけど、それを集約していくと……美しさ。僕はよく「音の美しさ」という言葉を口にします。音が美しいというのは素晴らしいこと。その美しさを今回のコンサートツアーでも表現したい。それと、もうひとつは感動。僕が何をいちばん大切にしているかと言ったら、感動できる音楽を創造することなんです。なので、美しさと感動。このふたつをキーワードに皆さんに十分に楽しんで頂けるコンサートにしたいと思っていますので、ぜひホールまでそれを体感しにきて下さい。

Interviewer:オフィシャル&平賀哲雄
Photo:(C)GEKKO

チケット情報

加古隆 50thアニヴァーサリーコンサート
ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~

2023年は、作曲家・ピアニストの加古隆がフランスでデビューしてから、50周年。
幼い頃から親しんだクラシック音楽、パリで開花した現代音楽とジャズ。
これらの要素が混じり合った音楽スタイルを持つピアノの詩人。
第1部ピアノ・ソロ、第2部加古隆クァルテット。4つのパートをお楽しみください。

Part1「巴里の日」
Part2「ポエジー」
Part3「クァルテットの誕生」
Part4「映像の世紀~パリは燃えているか」
出演:加古隆(Pf.)・相川麻里子(Vn.)・南かおり(Va.)・植木昭雄(Vc.)

【大阪公演】 2023年5月20日(土)開場 14:30 / 開演 15:00
住友生命いずみホール
【東京公演】 2023年5月28日(日) 開場 13:30 / 開演 14:00
サントリーホール 大ホール
東京公演はこちら ▶︎ 大阪公演はこちら ▶︎
配信情報

50周年記念アルバム『KAKO50』5月10日(水)リリース

加古隆がフランスでデビューしてから50周年を記念して、日本帰国後に手がけてきた数多くの映画、ドラマ、CMなど映像作品のための音楽を集成した50周年記念アルバム。収録トラックは基本的には初出の音源を収録してます。現代音楽作曲家、パリ時代のフリージャズピアニストとしての活躍を経てたどり着いた「音楽の画家」とも称される加古隆ならではの映像のための美しい音楽の数々をお楽しみください。

楽天ミュージックで配信予定▶︎
加古隆

加古隆(作曲家・ピアニスト)プロフィール

作曲を東京藝術大学・大学院、パリ国立高等音楽院で学び、現代音楽の巨匠オリヴィエ・メシアンに師事し最高位の成績で卒業。
クラシック・現代音楽・ジャズというジャンルを包含した音楽スタイルを持ち、ピアノ・ソロ曲から室内楽、オーケストラ曲、映画音楽など幅広く活躍。ピアニストとしての音色の美しさから「ピアノの詩人」とも評される。
代表作にパウル・クレーの絵の印象を基にしたピアノ曲集「クレー」があり、NHK スペシャル「映像の世紀」とそのシリーズ番組のテーマ曲「パリは燃えているか」で知られる。2016 年度日本放送協会・放送文化賞を受賞。

加古隆オフィシャルサイト
https://takashikako.com/